「ようかんの美味しさを世界に広めたい」 13代岩谷堂羊羹・回進堂の若旦那、菊地さんの挑戦。

Text : Hiroshi Kishiro Photos : 回進堂提供
ニューヨークで開催された第69回サマーファンシー・フードショウでの菊地さん

2025年6月、マンハッタンにあるニューヨーク最大のコンベンション会場「ジャビッ ツ・センター (Javits Center)」で第69回「サマーファンシー・フードショウ (Summer Fancy Food Show)」が開催された。

SFA(Specialty Food Association アメリカのプレミアム食品を統括する非営利団体)が主催、ジェトロ(日本貿易振興機構)が出展支援する当イベント、 期間中の会場は世 界中から集められた個性豊かな食材で埋め尽くされ、3万2千人を超える食の関係者で 賑わった。

日本の食材が並んだエリアは注目度が高く、例年活況を見せる。抹茶や和牛など海外で馴染みのある日本の食材が並ぶ中、今回人々が足を止めて見入っていたのは岩手県 の老舗、回進堂のブース。薄切りにしたようかんとバターが盛られた小さな試食用のトーストを口に運び、ディスプレイされたパッケージを手に取ってはスタッフに口早に質問を浴びせかける。

「これは何?どんな素材でできているんだい」
「甘さが強すぎないのがいいね」
「可愛いデザインね。どこで買えるの」

和菓子の代表として日本では世代を超えて愛され続けてきたようかん。1927年創業の回進堂が製造する「岩谷堂羊羹(いわやどうようかん)」の始まりは延宝年間(1673 〜1681年)と伝えられており、当時の伊達藩、岩谷堂城・城主の保護を受け城の名前を使うことを許されたというエピソードがある。

「このようかんの歴史はアメリカよりずっと古いんだ。」そう聞いたアメリカ人は大概目を丸くする。古来伝来の製法を守り続け実に300年余り。厳選された素材を使って丁寧に練り上げられた回進堂のようかんには程よい甘さと舌触り、えもいわれぬ上品さがある。

回進堂のひとくち羊羹

和モダンなパッケージが印象的、どこでも楽しめる回進堂のひとくち羊羹 (写真提供:回進堂)

海外進出のきっかけとYokan Collection

取締役を務める回進堂の第13代若旦那、菊地孝徳(たかのり)さんは海外進出のきっ かけについてこう語る。

「2017年にシンガポール、そして2019年のニューヨークで行われたYokan Collection (ようかんコレクション)に参加させていただいたんです。まだ海外で知名度の低いようかんですが、その時の人々の反応を見て『意外と海外でも受けるのでは?』という感 触を得まして。」Yokan Collectionとは2010年を皮切りに日本全国のメーカーが参加して国内外でようかんを発信したプロモーションイベントのことだ。 また菊地さんには今後も岩手だけを基盤にビジネスを続けると、会社の存続が難しくなるのでは、という懸念があった。「社長(父:菊地清氏)に相談したら『やってみた ら』とゴーサインを貰えたんです。2023年、コロナ規制が明けたのをきっかけに海外の販売経路の開拓を本格的に始めました。」

海外の挑戦はアジアからスタート。だがその反応は期待したものではなかった。

「まず台湾、そして香港。文化の近いところから攻めた方が成功しやすいんじゃないかと考えたんですが、取り扱いに興味を持ってくれるところが見つからない。似た製品が自国にあるのになぜ日本の商品を仕入れる必要があるの?というリアクション。価格も叩かれてしまう。『良い品質の商品をふさわしい価格で』というこちらの狙いは満たされませんでした。」

食品展示会に申し込むも落選。そして体当たりの売り込み

そんな中、2024年10月にジェトロが出展支援するSIAL Paris(Salon International de l’Alimentation シアル・パリ。ヨーロッパで最大の規模を誇る総合食品見本市)がフランスで開催されることを知る。菊地さんは早速参加を申し込んだが、選考に漏れてしまった。

「それがメチャクチャ悔しくて。見本市の時期に合わせてパリに向かったんです。ブース参加はできなかったけれど展示会にも足を運んで、ディストリビューター(卸業者) にもとにかく会って商品を紹介して。」
だが回進堂の商品を請け負ってくれる業者は見つからなかった。

「請負う側にもやっぱりリスクがありますからね。そこで日本の食材の取り扱いのあ る店の情報を貰って、一口ようかんを沢山詰め込んだバッグを背負って、一人で30件 近くを片っ端から回ったんです。」

菊地さんは英語もフランス語も殆ど話せない。だがフランス人の店員達は飛び込みで やってきて、片言の英語で一生懸命説明を試みる菊地さんに心を開いてくれた。わざわざ遠くからよく来てくれた、と温かい反応を見せ、上役に繋いでくれたこともあった。

「フランスには古くから伝わる伝統技術や職人芸を重んじる風潮があるんです。それに お互いに母国語でのコミュニケーションでなかったのがかえって良かったのかも (笑)」

そんな中一軒のお店で取扱いが決まった。菊地さんは一旦帰国した後、再度パリに戻り その店頭で試食販売を実施した。

「数字だけ見たら全くの赤字ですよ。でも実際店頭でお客さんに商品を薦めると興味 を持ってくれたり、商品の良さがわかる人がちゃんといる。その反応を自分の目で見る ことができた。そしてきちんと商品も動くんだ、ということに確信が持てたんです。」

2025年1月、フランスのリヨンで開催された食品展示会にて

2025年1月、フランスのリヨンで開催された食品展示会にて

リヨンの食品展示会への参加とディストリビューターの獲得

その半年後、2025年1月にリヨンで開催されたSirha 2025(The International Food Service and Hospitality Exhibition シラ国際外食産業見本市)では審査に通り、パビリオン参加が実現。なんと初日でディストリビューターも獲得。

「この商品は自分たちが 担当するから、もう明日からは来なくて良いよ、と言われました(笑)あの時のこと は今でもはっきり覚えています」

現在、回進堂のようかんはパリの20件以上の高級食 材店で取り扱われている。

「世界の食通」として知られるフランス人の間でようかんが受けたことは菊地さんの大きな自信となった。その後も菊地さんの体当たりの売り込みは続き、ヨーロッパの 国々ではスペイン、ポーランド、ハンガリー、イギリス、アジアでは韓国やインドでも回進堂の羊羹は販売されている。

「どこの国に行く時も大量のようかんを持ち込むんですが、いつも空港で怪しまれて 『これは何だ?説明しろ』ってセキュリティーに止められるんです。」と菊地さんは笑う。 わずか3年余りで既にヨーロッパで流通していた有名メーカーを上回る快進撃ぶり。その点について菊地さんはこう語った。

「(ディストリビューターに)商品の扱いを任せきりにする会社も多いと思いますが、 僕は色々な店に自ら足を運んで、商品を取り扱ってくれないかダイレクトに交渉するタ イプ。つまり自分の足で需要を作るんです。あとは普段お客様に接している店員さん達へ商品説明をしっかり行う。すると他メーカーより明らかに商品の数が動くようになって、結果ディストリビューターから僕たちへの注文数が増える。でも店の扉を開ける時は今でもすごく緊張しますよ(笑)」

2025年10月、ドイツのケルンで開催された食品展示会。参加者の注目を集める回進堂のブース

2025年10月、ドイツのケルンで開催された食品展示会。参加者の注目を集める回進堂のブース

ヨーロッパより困難?アメリカのマーケットと次なる展望

菊地さんが次に進出に興味を持ったのがアメリカだった。だがアメリカ人は定番「ライス・アンド・ビーンズ(肉や野菜のエキスを使って煮込んだ豆の料理。通常ご飯にかけて提供される」のような味付けには慣れていても、甘く味付けされた小豆に馴染みがない。

「アメリカのマーケットは正直、切り込むまでがヨーロッパよりずっと難しい。でも 最近は緑茶の人気に勢いがある分、以前より小豆を使った和菓子が受け入れやすい土壌ができてきた。またヴィーガンやグルテンフリーに対する関心が高まっているのも追い風」と菊地さんは話す。

手に取りやすく、見栄えのする和モダンのパッケージに加え、回進堂のようかんには他の和菓子ブランドにない強みがある。それは極薄フィルムを使った特殊包装だ。この包装により賞味期限を15ヶ月と長く保つことが可能、店舗側は長期間安心して商品を棚に並べることができる。

現在某日本茶のブランドとコラボレーション企画がアメリカのマーケット向けに進行中だ。「アメリカ人が日常的に利用するホールフーズやウォールマートのような大型店舗にようかんを置いてもらえるようになってこそ」と菊地さんのゴールは大きい。

「もし誰かが先に同じことを成し遂げていたら、ここまで一生懸命になれなかったと思う。『自分が一発目、第一人者だ』というところに大きな意味があるので」と菊地さんの目は輝く。

ようかんの美味しさを世界に広めたい、という菊地さんの挑戦。世界の旅先で思いがけなく回進堂のようかんに出会える日もそう遠くなさそうだ。

株式会社 回進堂
https://iwate-kaishindo.co.jp/
設立年:1927年
事業内容:羊羹、ゼリー等の製造・販売



著者について

Hiroshi Kishiro profile

Hiroshi Kishiro
東京都出身。在ニューヨーク25年。
M.F.A(アート修士号)所持。日本での専攻は初等教育学。
ホスピタリティー業界でデザイン、PRに15年携わった後不動産業界に転身。
エージェントとして仕事をする傍ら持ち前の好奇心とフットワークを生かしデザイン、
TV番組制作、ライター、ツアー作成まで様々なプロジェクトを展開中。



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