文：緒方公俊
（株式会社H.J.T.Production／全日本プロレス レフェリー）

アメリカで歴史を切り拓いた男、馬場正平(ジャイアント馬場)というレジェンド

大谷翔平がナ・リーグMVPを受賞し、アメリカ・メジャーリーグは再びその名前で沸き立った。
“SHOHEI”という響きは、いまや世界のスポーツファンを熱狂させる象徴のひとつだ。

だが――。
世界をわかせた「ショーヘイ」は、実はもうひとりいる。
それが、ジャイアント馬場こと 馬場正平（Shohei Baba） である。

■ 野球少年から伝説へ

馬場正平は1938年、新潟県三条市に生まれた。
2メートルを超える稀代の体躯と柔らかい球質を武器に、読売ジャイアンツの投手として入団。
それだけでも稀有な存在だが、彼の人生は、怪我で大きく方向を変えることになる。

失意の中で出会ったのが、日本のプロレスの創始者・力道山だった。
スカウトを受け、プロレスの世界へ転身
ここから「世界をわかせた最初のショーヘイ」の物語が始まる。

■ アメリカのリングでの孤独な挑戦

1960年にプロレスデビューした馬場は、さらなる武者修行のためアメリカへ渡る。
当時、東洋人が米国のレスリング界でトップに立つことは、ほぼ不可能と言われていた。

それでも馬場は挑んだ。
言葉も文化も違う。
偏見も差別もあった。
時には“ジャイアント”という体格を嘲笑され、アジア人であるがゆえ理不尽な扱いを受けた。

しかし彼は決して折れなかった。

誰よりも早く道場へ入り、最後まで汗を流す。
試合になれば堂々と、誠実に、真っ向から勝負する。
その姿勢は次第にアメリカのレスラーやファンの心を動かし、やがて敬意へ変わっていった。

■ 孤独の果てに掴んだ世界

馬場はアメリカ各地を転戦し、NWA（世界最大団体）の主要タイトル戦線にも食い込んでいく。

NWA、WWWF、WWA――
当時「世界三大タイトル」と呼ばれた王座に、わずか一年の間に連続挑戦したのである。
これは、アメリカを主戦場にしていた強豪レスラーでさえ成し得なかった“破天荒な挑戦”であり、
まさに 日本人レスラーとしての、そして「ショーヘイ」という名の世界的価値を決定づけた一撃 だった。

のちに自身の団体・全日本プロレスを立ち上げPWFヘビー級王座、当時の世界最高峰の王座であるNWA世界ヘビー級王座を3度獲得したことで、 東洋の巨人は真のワールドクラスのスターとなった。

その活躍は日本人アスリート史の中でも異例であり、文字通り“世界を相手に勝った日本人”だった。

アメリカのレスリング界において、
「SHOHEI BABA」という名前は、
尊敬を込めて語られるレジェンドのひとつとなったのだ。

■ 世界をわかせた“最初のショーヘイ”

いま、大谷翔平がMLBで記録を塗り替え、全米を魅了している。
その姿に世界中のファンが歓喜するたび――
我々は思い出すべきだ。

約半世紀前に
“世界をわかせた最初のショーヘイ”
がいたことを。
体格への偏見も、言葉の壁も、文化の違いも、すべてを正面から受け止め、
それでも笑い、戦い、堂々と立ち続けた"東洋の巨人・馬場正平"。
その孤独で壮大な挑戦こそが、
今日の大谷翔平へと連なる「SHOHEI」という名の歴史を切り拓いたのである。

■ 二人のショーヘイが教えてくれるもの

時代も競技も違う。
しかし二人のショーヘイには共通して流れるものがある。

挑戦を恐れぬ心。
孤独さえも力に変える強さ。
世界に立ち向かう勇気。
努力を積み重ねる誠実な姿勢。

馬場正平が切り拓いた道は、大谷翔平が照らす新時代へと確かにつながっている。
“SHOHEI”という名前が世界に響くたび、その起点には、必ずあの巨人がいるのだ。

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